「次元の異なる少子化対策」がピンとこない
に少子化に対する岸田政権の施策計画の一覧がある。課題としては出産年齢世代が結婚できないことが問題の一つであり、所得の向上が必要だ、とあるのだがこの課題に対する見通しははっきりわからなかった。所得向上を実現する明確な「戦略」はなさそう。
働き方改革、リスキリング、男性の育休取得などは書かれているのだが、これは正社員の話が中心なのかな。これで結婚から出産にいたるカップルが増えるといいが。
ニッセイ基礎研究所レポートから
ニッセイ基礎研究所の少子化に関するレポートを読むと今までのいろいろな施策の間違いがよくわかる。
【少子化社会データ詳説】日本の人口減を正しく読み解く-合計特殊出生率への誤解が招く止まらぬ少子化
合計特殊出生率とは何であり、どこにポイントがあるのか、を考えるレポート。
夫婦が持つ子供の数が大きく減ったことが少子化の原因ではない。
結婚している夫婦が持つ子供の数が減っていることをターゲットにした対策には、結婚しないことに対する対策は含まれない。
【少子化社会データ詳説】日本の未婚化を正しく解釈する-若者の希望と違った応援議論はなぜおこるのか
「支援制度」がターゲット世代に効く支援になっていない、というレポート。
34歳以下の若い世代の「いずれ結婚したい」割合は80%程度なのになぜ結婚できないのか、というのが問題。
この世代が理想とする結婚後の生活は子育て期でも女性が仕事を続けるカップルである。
それを支援する制度は充分ですか?というのがレポートで指摘されていること。
高々20年ぐらいの間に理想とする結婚生活像が激変してきた。現在のカップルは子育て期に仕事を辞めることは想定していない。
一方、企業の制度はそこまで整備されていない。
会社内での地位が上で制度を決める力がある上の世代が自分たちの基準で「家族はこうだからこの制度がいいだろう」とする支援制度と当事者である若い世代が求めている支援内容がずれている。
都道府県別の合計特殊出生率って意味ある?
上記のレポートの前に公開された統計に関するレポートが興味深い。都道府県単位の合計特殊出生率と出生数減は相関しない、という分析だ。
たとえば、東京と沖縄は出生数が多いという点は同じだが、合計特殊出生率で見ると大きく異なる。
東京への若い女性(母親候補)の移動が止まらないと自治体ごとの出生数の減少を止めることはできない、という明確な結論。
合計特殊出生率の定義
合計特殊出生率の定義と公式統計は以下のページにある。
A「期間」合計特殊出生率
ある期間(1年間)の出生状況に着目したもので、その年における各年齢(15~49歳)の女性の出生率を合計したもの。
女性人口の年齢構成の違いを除いた「その年の出生率」であり、年次比較、国際比較、地域比較に用いられている。
出生率の話題では、この統計数値をベースにした議論が行われる。
ニッセイのレポートを読んで納得感があったのが、上の定義からの変形式だ。女性全体は、未婚(子供を持つ可能性が低い)女性と、既婚(子供を持つ可能性がある)女性のどちらかと考えていい。
ということから
女性の数は(未婚女性の数+既婚女性の数)と同じであることからこの式は:
となる。現在の日本では婚外子が少ないし、移民も多くないので、0に近い未婚女性が生んだ子供の数をゼロにする:
となる。
都道府県ごと合計特殊出生率で管理することのデメリット
上記の変形式の分子が大きくなるか分母が小さくなれば合計特殊出生率が大きくなる:
-
既婚女性が多く子供を産む。式の分子が増えるため数値が増える。
-
未婚女性が減る。式の分母が減るため数値が増える。
既婚女性が今と同じぐらいのレベルで子供を産んでいる状態でも、未婚女性が自然に減っていく(人口が減るという理由と、東京に移動するという理由)から合計特殊出生率は自然に上がる。指標だけに注目すると「今の施策で合計特殊出生率が上がった!」という評価になる。
指標の組み合わせが必要
未婚、既婚の区別なく子供を持つ社会であれば合計特殊出生率でいいが、日本的な、というか、結婚せずに子供を持つことを否定する社会では、若い女性が結婚して出産するというプロセスにをたどるしかない。
ということは:
出産世代の女性数
結婚率(出産世代未婚の女性が結婚した割合)
出生数
合計特殊出生率
のように複数の指標の組み合わせにしないと現状把握ができないということにならないだろうか。
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