安田浩一「団地と移民」

高齢化する団地

著者が取材した常盤平団地では老人の孤独死対策として行われているサロンなどの施策がある。
この活動を他の団地から見学に来るらしい。同じような状況を抱えている団地が数多いということだ。

現在、自分が古いUR団地の住民なので、50年以上前に建設された団地の高齢化は実感がある。団地建設当初からお住まいだろうなと思われる方々が数多く住んでいる。
こういう方々の夫婦どちらかが亡くなって一人住まいになり、孤独死のリスクを抱えているケースは数多そうだ。

国内の団地の移民問題

移民問題で報道されることが多い川口芝園団地。
岡崎氏が川口芝園団地で活動を始めた経緯やその行動力は面白い。それとともに、この活動が他の団地でなかなか広がっていかない理由もよくわかる。
こういう行動力の若い人がどこの団地にもいるということはないだろう。

広島市営基町高層アパートと愛知県豊田市の保見団地も取材している。この本に書かれていた現地の様子を見ると、インターネット上の「行ってみた」系の「現地取材」は住民の話を聞かず見た目と思い込みが多いということがわかる。

フランスの団地の移民問題

この本で面白いのが、移民問題を抱えるフランスのブランメル団地を取材していること。

著者がフランスの団地に行くと話すとフランス在住の知り合いから「あそこは危ない」と言われたが実際に行ってみたら普通の団地だった、という。
日本でもフランスでもこういう偏見は同じようなものなのだな、という納得感のあるエピソード。

自分のイメージだとフランスは移民の受け入れに関して「そこそこ」な感じの国だったのだが、実際はかなり排除的。
ムスリムの女子生徒のスカーフを禁止する法律についても、日本では「仏蘭西は政教分離だからそうなっている」と説明され自分もそう理解していた。

しかし、この本では団地住民の権利向上運動をしているズィーナという女性が次のように説明する。「アルジェリアではフランス軍が女性のスカーフをはぎ取る運動をしたことがあり、その記憶がフランスのムスリムの人たちにある。しかし、フランスは同化しない人を認めない。自由と平等は同化の上に成り立っている。」

フランスの団地ではそこを拠点に移民が自分たちで居場所を作り、教育を行ったり、さまざまなコミュニティ活動をしている。
団地に住む失業中の若者たちが活動の一環として団地住民に向けてフードバンクみたいなことをしたり、ホームレスに炊き出しをしたりするのがたくましい、というかすごいと思った。

感想

埼玉県の川口芝園団地での活動を岡崎氏がどうやって始めたのか知りたい。というのがこの本を読んだ最初の動機だったのだが、団地の歴史とか日活ロマンポルノの団地妻シリーズの監督を取材したりだとか、とにかく幅広く取材されている。
自分が住んでいるような5階建てのUR団地にエレベータがない設計を採用したことを担当者が後悔しているというコメントをされていたりと発見が多かった。

川口芝園に関していうと、岡崎氏のすごい実行力のたまものなんだなあ、と思った。ここまですごい人はなかなかいないと思うが、こういった個人の行動が流れを作ることができる可能性がある。

団地の移民と住民や若者と高齢者の断絶をみたときに一歩踏み出せる人がいれば意外と活動が回り始めるのかも、という希望も少し持てる一冊。

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